国及び地方公共団体の財政赤字と累積債務の急増が問題になって久しいが未だに抜本的な対策はとられようとしていない。この原因は、 1 つには、借入金を収入に計上してしまうという公会計の仕組みにあり、2つめには、公務員も含めて国民の間に国や地方公共団体は赤字を出しても政策を遂行しなければならないし、赤字を出してまで国民のために尽くしてくれるという赤字大歓迎の意識にあると思う。
借入金は収入 ?
公益法人会計も含め公会計制度では、貸借対照表と損益計算書の代わりに資金収支報告書と財産目録を作成している。資金収支なのであくまでも入ってきた資金から出て行った資金を引いてプラスであれば“ OK! ”なのである。入ってきた資金が全額借入金であっても、「借入金収入」という名称で収入計上される。そこには借りたものは返さなければいけないという発想はない。
国の予算も決算も歳入と歳出という形でしか開示されていない。歳入の中には公債金という科目で借入金がしっかりと収入計上されている。これを企業会計と同じ複式簿記の手法で損益計算書の形で表示すれば、公債金という科目はどこにも出てこなくなる。なぜなら、これは借入金であり、返済しなければならないものだから損益計算書には載せられないのである。公益法人会計などを勉強すると、必ず、公益法人等は、利益を追求するものではないから企業会計の手法はなじまないという解説が出てくる。しかし、本当に損益計算書は利益を追求するためだけのものなのであろうか ?
企業は利益を追求し、国は赤字を追求する ?
企業は利益を追求するために存在する。これは正しい。しかしなぜ利益を追求するのか ? それは利益が出なければ資金不足に陥り、借入金などがあった場合これを返済することができなくなるからである。また、当然のことながら更なる投資もできないし、ついには事業を継続していくこともできなくなる。
損益計算書に計上されるべき収入は返済しなくて良いものだけである。返済しなければならない借入金などは、そもそも収入ではない。収入から、原価や必要経費を差し引いて(企業の場合税金も)、残ればそれが当期利益となる。大雑把に言えば、この当期利益に減価償却費を加えたものが、当期のキャッシュフロー(資金増減額)であり、この金額が、設備投資や、借入金元本の返済の原資となる。損益計算書と貸借対照表は利益の追求だけでなく、自己資金と、他人の資金を明確に分離し、資金の流れの透明性を確保するという重要な役割も担っている。
国や、地方公共団体の行う事業は、採算の取れないものだから、赤字は当たり前という考え方がある。しかし、そのために、国民は税を負担しているのではないのだろうか ? 税収というのは、国等が行う業務の採算割れの部分を補うためのものである。公共のためだからといって何の歯止めもなく事業費を水増しし、足りなければ国債を発行して、返済しなければならない資金を収入計上して帳尻が合っているから大丈夫、なんてことは許されるべきものではない。
公会計が単年度収支を基本とするのはその年度の税収の中でその年度の経費を賄いましょうという意味であって、最初から赤字を想定するものではない。収入の中に赤字国債の発行額を当然のように入れるのは想定外のはずである。本来は複式簿記を基礎とした企業会計の手法に基づき損益計算書と貸借対照表を作成するのがアカウンタビリティーの面からもより良い方法だと思うが、せめて、返済しなければならない資金と、返済しなくて良い資金の区別くらいは公会計であっても付けるべきである。
国民の年金資金も収入 ?
先日、社会保険庁で国民から預かった国民年金や、厚生年金の保険料のずさんな管理が問題になった。きっと公会計制度では、国民からの預かり保険料も、預り保険料収入という名称に代わり、歳入の一部として、自己資金として使ってよいものという認識で、大手を振って使い込んでいたのだろうと思うととにかく悔しい。しかも、特別会計で運用されていたのだから使い放題だっただろう。民間の保険会社等では、預り保険料はあくまでも預り金で他人の資金であり、自社の収入ではない。国も同様に、国民からの預り金としてきちんと管理してほしい。
しかし、彼らに他人の資金を預り金として管理する能力が全く無いのかというとそうでもないらしい。なぜなら、自分たちの年金の原資である共済年金等の保険料については預り金としてきちんと管理しているらしいから。
赤字大歓迎 ?
一方国民の側でも、赤字を歓迎する声がある。民間企業は利益を出すことばかりを考えているから、値段は高いし、利益が出せなければすぐに手抜きをするから信用できないというような話をよく耳にする。しかし、企業が利益を追求するのは、先にも書いたとおり、赤字では事業が継続できないからに他ならない。したがって、赤字にしないための最大限の努力を行う。
たとえば、 UFJ 銀行は、前期決算が大幅な赤字に陥ったため、従業員の夏のボーナスは 80 %カットという記事が出ていたし、経費節減のため、製造、管理、運営上の無駄を徹底的に排除する。福利厚生のための費用など真っ先にカットされてしまう。国・地方は民間から税を負担してもらいながら、毎期大幅赤字で累積債務は 1,000 兆円といわれているが公務員の給与はほとんど削減されていない。バブルが崩壊したあと民間の賃金水準はどんどん下がったが、公務員給与は高止まりしたままであった。さらに福利厚生事業とか退職金や年金の優遇で給与の官高民低の流れは止まるところを知らない。官民の格差は増加の一途である。
補助金、助成金の類も垂れ流されている。厚生労働省では , 国民年金等のパンフレットの作成を委託した企業から、同省職員が多額の監修料を受け取っていたことが報告され問題になった。自分で委託した原稿の内容を監修したり校正を行ったりするのは通常業務の一環だと思うが公務員や官僚は考え方が違うのであろうか ? もともとの資金の出所は、税金なのだから給与の二重払いに過ぎない。災害で自宅が倒壊したり、床上浸水等で住めなくなっても、個人の所有財産の修理や建替えに国民の税金を投入するのは不合理だとして今まで何の援助もしてこなかったのに、社会保険庁の職員には税が個人的に還流しても所得税の申告をしたからそれで良いというのは矛盾している。
決算報告は 1 年後?
なぜ、これほど各省庁、各部署で無駄遣いや不正が発覚しながらそれが改善されないのか ? これは公会計の予算偏重主義と前例踏襲主義にあると思う。
予算を立てたら予算どおりに業務を遂行しなければならない、イコール、予算どおりに資金を全部使い切らなければならないという考えと、一度付いた予算は見直さないという悪しき慣習である。さらにこれほど世の中の状況は目まぐるしく変化しているにもかかわらず、国の決算発表は翌々期の予算報告と同時のようである。これでは遅すぎて使途を検証しても翌年の予算にも反映させられないので、不要な予算がどんどんばら撒かれ、無駄な借金だけが積み上がる結果となる。
企業は、迅速な意思決定のために四半期ごとの利益予想を出し、決算の確定予想時期もどんどん早めている。投資の効果を迅速に見極め、方向性を決めるためにはどうしても素早い会計処理が必要なためである。
国等は利益を追求しないとはいえ、国民に負担してもらった税金で業務を行っている。税が予算どおりに使われたのか、その予算の金額は妥当であったのか、また、足りなければもっと切り詰められるところがあるのではないかなどをきちんと検証して次の年度予算に反映させるのが国民に対する義務ではないかと思う。
財政赤字の解消は ?
金融機関やゼネコンに法外な税金を投入して破綻の処理をしなければならなかったのは , 赤字の処理を先送りしたからに他ならない。国の財政赤字、多額の国債残高についても同じである。 1,400 兆円といわれるの個人資産の範囲に国債発行残高が収まっている間に抜本的な処方を行わなければ、日本の将来は無いであろう。そのためには増税という手段も考えなければならないかもしれない。
そのときに、いい加減な会計処理とずさんな管理では国民の理解は決して得られない。公務に携わる方たちには、税の重みというものを良く考えて、税を本当に有効に、そして大切に使ってもらいたいものである。
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