平成17年4月のペイオフ全面解禁を控え、金融機関の不良債権処理が大詰めを迎えようとしている。それにあわせて、RCC整理回収機構は、金融再生法第53条第2項に基づき、健全行からもいわゆる不良債権の買取を行っている。
銀行は、RCCに不良債権を売却して損失処理し、最近の株高と、公的資金のおかげで何とか健全性を取り戻しつつあるが、RCCに債権を買い取られた債務者は、その後どうなったのであろうか? バブル華やかなりし頃、住宅ローンを組んで自宅とアパートを購入した個人事業者A氏は、その後の不景気の影響でローンの返済が滞っていたところ、借入先の銀行が吸収合併され、ローン債権がRCCに譲渡されてしまった。当初は気長に弁済していけると考えていたが、1〜2年たつと、まずアパートを競売にかけられた。当然、ローン残高よりも大幅に低い金額でしか売却できず、かなりの残債が残った。後は、自宅しか財産はない。RCCは、A氏に対し、自宅の競売を迫っているという。自宅を売却しても、まだ債務は残る。親族であるB氏が保証人になっているが、B氏とて財産は自宅の土地建物くらいしかなく、普通の会社員なので生活にそれほど余裕があるわけではない。残債について、支払を命じられるとB氏まで、居住の場を追われ、なおかつ生計を維持できなくなる可能性が大きい。
他にも、住宅ローンが滞り、RCCに債権譲渡された個人であるC氏が、担保不動産である自宅を競売にかけ、RCCに債務の一部を弁済したところ、残債について、その保証人となっていた高齢の母親の自宅まで競売にかけられたという例もある。
金融機関の再編の過程でRCCに債権が譲渡されてしまった中小企業、銀行の住宅ローンの返済ができないでRCCに債権を譲渡されてしまった個人。RCCが主体となって、再建に成功した企業の話をテレビの番組で見たことがあるが、これは非常に稀で幸運なケースである。現実は、先の例のように中小企業や個人、あるいはこれらの保証人に対して、強硬な債権の取立てを行い、担保権の強制執行も辞さない。たとえそれが居住用の財産で、生活の拠点であったとしても、何の配慮もない。なおかつ、競売にかけられた個人の自宅を、その親族が落札しようとすると、公正な取引でないということで拒否されてしまうという話も聞いた。
RCCは、旧住専(住宅金融専門会社)が抱えるかなり悪質な不良債権の回収を目的として強力な権限を与えられて債権回収を行った住管機構(住宅金融債権管理機構)を前身とする。当時は、債務者による財産の隠蔽や、差押え回避など悪質な行為も多く、それなりの実績を上げた。
しかし、住専の処理も一段落し、平成11年4月に叶ョ理回収機構として発足してからは、平成バブルの崩壊により、返済不能に陥った中小企業や、住宅ローンが返済できなくなった一般個人の債権が多く買い取られるようになった。中小企業に対する債権は、ほとんど経営者個人が債務保証している。中小企業に対する債権の取立ては、すなわち個人に対する取立てである。このような個人に対して、旧住専の債務者と同じように債権の回収を強行することが果たして妥当であろうか?
経営の安易な拡大、甘い収益予測、土地の価額は上がり続け、右肩上がりの経済成長が永遠に続くという希望的観測、給料も上がり続けるという幻想、平成バブルに踊ったのは、中小企業の経営者やサラリーマンだけではなかったはずだ。銀行も乱脈融資に走り、必要のないゴルフ会員権や土地を企業や個人に買わせた。その際、担保物の評価はまともに行わなかったので、時価300万円くらいの土地に1億円の抵当権を付けることも平気で行われていた。
借りたお金は返すのが基本だというが、景気の後退から担保価値の下落、果ては銀行からの押付け融資、これらすべての責任を債務者だけに負わせて良いものであろうか?
また、RCCが債権を買い取る際に担保不動産の価値を再評価したという話は聞かない。RCCは、担保価値をいくらで見積もり、担保付の債権をいくらで取得したのであろうか?詳細は分からないが、もしも、登記された抵当権の額をそのまま回収可能額と見積もっているとしたら、二次損失の発生は避けられない。買取額にも問題があると言わざるを得ない。
債務者であっても、返済ができなくても、保証人になったとしても人間である。憲法で、最低限度の健康で文化的な生活を営む権利は保障されている。RCCのホームページの中でも、次のように明記されている。
『RCCは、「契約の拘束性」を追求するあまり、「人間の尊厳」が損われることがないように最大の注意を払っています。
例えば、ご返済の意思を持ちながら、老齢、病気、失業といったさまざまな事情により、社会的、経済的に保護されるべき債務者の方に対しては、その個別具体的な実態を正確に把握して、適切な対応を行うように配慮しています。』
この文章の中にある「適切な対応」がどのような意味であるかは不明であるが、個人の生活を破綻させてまで、債権を回収することが正当な権利であるとは思えない。むしろ、一度失敗してもその失敗を糧に、再起できるような社会にしていかなければならない。そのためには、担保付の債権については、担保を処分した残債は債務者に瑕疵がなければ免除するとか、保証人に請求できる範囲は、保証人の収入のうち生活費を差し引いた一定額に限るとか、一定の基準を定めて、RCCが、個人や中小企業に対して債務免除を行える制度にしなければならない。また、個人の場合、自宅の売却には慎重であるべきだ。やむを得ず競売にかける場合には、家族や親族に積極的に落札させ、債務者のその後の生活、再起への援助を行うことができるようにしたほうが良い。
失敗が許される社会とは、何度でも挑戦することが可能な社会であり、将来への夢が持てる社会でもある。RCCが、中小企業や個人の再起を後押しするための組織になれば、経済の活性化に役立つことと思う。
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