PARTTでは、子育て支援の不備や、経済的問題により、子供を生むことができなかったり、子供を生みたくなかったりする点について言及したが、今回はさらに、社会環境自体が、子供を育てることに適合しなくなっている現状にも目を向けたい。
少子化原因の第3は、治安の悪化や、教育行政のめまぐるしい変更により、子供を育てることに対する不安が増大し、子供を生みたくないと考える夫婦が増加傾向にあることである。従来、わが国は、世界でも有数の治安のよい国として知られていた。ところが、最近では新聞やテレビでさまざまな犯罪が報道され、国民の生活を脅かしている。
中でも青少年の犯罪は増加の一途をたどり、特に、これから子供を生み育てようとしている世代にとって恐怖なのは、おとなしくて成績優秀ないわゆる「よい子」が凶悪な犯罪を起こしていることである。どのような育て方をすればよいのかという規範が存在しなくなっている。
逆に、子供を狙った犯罪も増加している。学校の警備や、登下校時の子供の安全をどう守るかが緊急の課題である。さらにそういった犯罪だけでなくもっと身近な問題は、いじめや、教師あるいは部活の先輩等から受ける暴力である。最近も、合宿中に体調不良を訴えてその後死亡した中学生の記事が新聞に載っていたが、顧問の教師から腹を蹴られるなどの暴行を受けていたということである。少年が犯した犯罪については、その後家裁に送致されたとか、保護観察処分を受けたとかという記事が出るが、教師が起こした暴力による死亡事故については、その教師がどのような処分を受けたのかという記事がほとんど載らない。まさか、生徒を死亡させてまで教育しようとした教育熱心な教師だということで、軽い処分になっているなんて言うことはないと思うが・・・。教育現場における暴力の取り締まりはもっと厳しくしてもらいたい。せっかくこの世に生を受けてきた子供の命がこのような形で奪われていくのは耐えられないことである。
また、最近高校生の深夜徘徊が問題になっている。東京都などは一斉補導に乗り出したり、保護者の責任として厳しく対処する方針を打ち出したりしている。しかし、これは中学生時代の深夜の学習塾通いが発端であるような気がする。学習塾の多くは、小学生の時間帯と、中学生の時間帯を分けて、小学生は4時頃から6時頃まで、中学生は6時半頃から通常で10時頃まで、受験前になると11時、12時まで授業を行っている。公立の中学校では生徒が学習塾に通っていることを前提として授業が進められているので仕方が無い面もあるのかもしれないが、中学校ぐらいの教科内容で、学校で授業を受けてさらに深夜10時過ぎまで学習塾で勉強しなければならないものであろうか?子供たちの多くは自転車で通っているが、夜の10時過ぎに同じ制服やジャージ姿の中学生が大勢コンビニにたむろしている様子は一般の大人でも恐怖を感じる。中学生の時に深夜に出歩くことに慣れてしまっているのに、高校生になって規制したところで効果は薄い。
子供の教育について親の関心は高い。最近の日経新聞紙上でも「義務教育の行方」というコラムを連載していたが、日本の教育行政に対する不信から、アメリカンスクールやチャイナスクールに、あえて通わせる親も多いとか。また、教育内容の3割削減などで公教育への信頼が揺らいでいる今、私立の学校が人気である。私立に通わせるにはやはり経済力が必要である。1人の子供にかかる教育費すら馬鹿にならない金額なので、そこそこの生活をしようと思えば結局子供の数を減らすしかない。教育にお金がかかりすぎることも少子の一因であることは否めない。
4番目は国、地方合わせて1,000兆円にも上る公的債務の存在である。ある程度の年齢になれば、子供でも、国や地方の借金のことを知っている。景気回復のお題目の元、野放しに債務残高を増やしてきた付けが誰に回るのか、よく考えてみてほしい。地方自治体にしても、平成の大合併とかで、合併特例債目当てに無理やり合併して、さらに議員歳費を最も高い自治体の額に合わせることで、公私共に、目先の収入が増えると大喜びしているが、特例債も結局は借金である。その付けが回ってくる子供や孫の世代は悲惨である。
選挙権も、発言権もない間に、国や地方の借金を背負わされて、後はあなた方の責任で勝手にやって下さい、でも、私たちの老後の面倒だけは見て下さいね、年金はちゃんと給付して下さいね、ということなのだからたまらない。今後生まれてくる子供たちの将来を考えると、とても子供を生む気になれないというのが正直な話であろう。
政府は、赤字国債の発行を抑えるために、増税の方向を模索しているようであるが、所得税や消費税を少々上げたところで、発行額を多少抑えることができるだけで、返済まではとても回らない。むしろ、だぶついている特別会計の歳入、歳出を情報開示し、そちらを一般会計に統合し、全体で無駄を省き、歳出を抑制することによって債務を弁済する方法を考えるべきである。不必要な特殊法人がやたらとあって、それぞれの法人に役人を天下りさせて多額の給料を支払っている実態が時々テレビなどで放映されるが、がんばって働いている公務員の給料を下げる前に、そちらをカットするべきではないのだろうか?公務員の給料も、たとえば、歳出の削減のためにいくつかの事業を統合して合理化する道を作ったとか、縦割り行政の排除に貢献したとかの実績に応じて成果報酬を個人なり、担当部課に出すような、歳出削減のインセンティブを与えるような方式にすればよいと思う。仕事をしてもしなくても同じ給料というのはどう考えても合理性に欠ける。
5番目は環境汚染の問題である。大気汚染、地球温暖化、産廃の不法投棄による土壌汚染、ひいては汚染物質の地下水や河川への流出。数え上げればきりがないが、これに加えて今後はアスベストの飛散の問題が発生してくる。少しずつ改善してきたとはいえ、行政の対応が遅く、なおかつ全て後手に回っている現状を見れば、この先何年、日本が人類の生息できる環境でいられるのかと恐ろしくなってくる。
最近発覚したアスベストによる健康被害。新聞記事によると、1987年に国は、国の施設についてアスベストを含有する建材の使用を禁止した。しかし、同時期に国交省はアスベスト含有建材を耐熱性に優れた建材として推奨している。阪神大震災で倒壊した建物にもアスベストは使用されていた。瓦礫の中、災害の後片づけをしていてアスベストを吸った人たちの中で癌の一種である中皮腫を発症する人が出てくるのは30〜40年後だという。
1987年に、全国の学校の建物にアスベストが使用されていたことで、全国一斉に調査が行われ、各学校で対策がとられたかに思われた。しかし、その調査はずさんなものであったらしい。未だにアスベストの除去が行われていない学校が全国に多々あるという。今後、学校を含めアスベスト含有建材を使った建物の取り壊しが増加するだろう。国は、これらの取り壊しに伴うアスベストの飛散について厳しい(?)規制をかけるというが、今までの例を見た限り、国の規制が有効に機能したためしがない。アスベスト含有の建築廃材の処分にも問題がある。シートで覆って飛散を防ぐというのだ。シートが劣化して破損し、そこからアスベストが飛散することはないのだろうか?
微量の吸引でも中皮腫を引き起こすと言われているくらい毒性の強いアスベストが日本中の大気中に舞っているような状況になったらどうするのだろうか?今後生まれる子供たちは生まれたときから微量のアスベストを吸い続けることになる。そうなるとこの子供たちの寿命は中皮腫の発症の確率に左右されることになる。このような環境で、子供を育てたいと思うであろうか?アスベストの無害化については研究が進んできているような記事が新聞に載っている。アスベスト含有廃材ついては、無害化処理を義務付けるべきである。また、アスベストの除去については、国がお金を出しても厳格な処理を義務付け、違反した業者には多額の罰金と営業停止処分など、厳しい措置を講じてほしい。何としても日本の環境を守らなければ。人が住めない国になってしまっては仕方がないであろう。
少子化対策には、老人や男性や企業の都合だけでなく、女性や若者にとって住みやすい社会作りが不可欠である。男女共同参画社会だの、ヤングハローワークだの、言葉だけはいろいろ言われているけれども、男性優位、企業利益優先の社会構造は何も変わっていない。子育ての負担を女性だけに押し付け、年金や国債地方債の負担も将来にどんどん先送りしていく現在の政府の施策では、とても恐ろしくて子供など生めるわけがない。女性が働きながら子育てのできる環境、若者が安心して働け、生活が維持できる環境、そして子供たちが安心して伸び伸びと育つ環境を、早急に整備してもらいたいものである。
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